「往人さん、これはどうかな? それともこっちはどうかな?」
「……。観鈴、どうしても買わねばならんのか? 私は今まで通りで一向に構わんのだが」
「ダ〜〜メ! この暑い夏をTシャツ一枚で乗り切ろうだなんてフケツだよ。服はわたしが買ってあげるからお金の心配はいらないよ、にはは」
 そう笑顔で笑いながら、楽しく私に似合う服を探す観鈴。神社の帰り際、観鈴が買物をしたいと言い付き添うことにしたが、まさか私のシャツを買うのが目的だったとは。
「ねえねえ、往人さん。こっちの赤いTシャツとこっちの赤いTシャツ、どっちが好みかな?」
「ええいっ、どっちも赤ではないか!」
 観鈴はどうあっても私に赤いシャツを着せたいらしく、入店してからずっとわざわざ赤いTシャツのみを見付けて来て、私に着させようとする。
「分かった、分かった。お前の言う通り大人しくシャツを買うことにする。その代わり、私自身で選ばせてもらうぞ」
 このままでは半ば強制的に赤いTシャツを着せられる羽目になるので、私は多少譲歩して自らシャツを選ぶことにした。
「うん、往人さんがそれでいいって言うんなら、わたしは別に構わないけど」
 観鈴の許可ももらい、私は晴れて自らの意志を持って着たいシャツを探すこととなった。
(とはいえ、いざ買おうとすると、何がいいかさっぱり分からんな)
 これまで服などまともに買ったことがないので、自分の着たい物や似合う物を探そうと思っても、どの服が良いのかさっぱり見当がつかない。
(やはり、無難な所でこれか……)
 特に着た衣服があるのではなく、どういったのが自分に合うのか分からない。ならば、普段着ているのとあまり変わらないデザインの物を選択するのが賢明だと、私はいつも着ている黒のTシャツとあまり変わらないデザインの黒いTシャツを選んだ。
「どうだ、観鈴。この服は?」
「う〜ん。そのTシャツ、いつも往人さんが着ているのと同じ感じのTシャツに見えるよ」
「そうだが、それかどうかしたか?」
「ダメだよ、往人さん。オバケのQ太郎じゃないんだから同じ服ばかり着ちゃ」
「何!? あれは服だったのか?」
 オバケのQ太郎というキャラクターの名を聞いたことはあるが、あの外見を覆っているのが服だというのは初耳だ。化物の類にしてはやたら可愛らしいデザインだと思っていたが、成程、あの愛くるしい服の化けの皮を剥がせば、それこそ悪魔的な姿の本体が見えるのだろう。
「とにかく、いつも同じ服ばかり着ているのはセンスがなさ過ぎるよ。そんなんじゃかっこよさの値が低くて、ベストドレッサーコンテストできれいなじゅうたんをゲット出来なくてストーリーが進まなくなっちゃうよ」
「言っていることがよく分からんが、どんな服を着るかは私の好みだろう」
「それはそうだけど、わたしの彼氏になるなら少しは身なりを気にして欲しいな」
「ええいっ、先程手を繋ぎはしたが、お前の彼氏になるとハッキリ断言した訳ではない!」
「センスのない彼氏のサポートは色々と大変なのだよ。にはは」
 終始観鈴のペースの乗せられ、最終的に自分で選ぶのは断念した。
「ねえ往人さん。この赤色のTシャツと、朱色のTシャツと、ベージュのTシャツと……」
「観鈴、一度赤関係のTシャツからは離れてくれ……」
 それが私の最後の譲歩だった。観鈴が私のTシャツを選ぶのは構わない。しかし、せめて赤系統以外のTシャツにしてくれと。
「仕方ないなぁ。じゃあ往人さん、どんな感じのTシャツがいいのかな?」
「そうだな。なるべく落ち着いた色のTシャツがいいな。グレーとか紺とか」
「う〜ん。今は夏だし、明るい色のTシャツの方が似合う気もするけど、往人さんがそれでいいって言うなら、それ系統の色で似合いそうなの探して来るね」
 そう言い観鈴が探し出したのは、緑色系統のTシャツだった。グレーや紺に比べれば明るい色に違いはないが、それでも黄色や水色よりは落ち着いた色ではある。
 私の意見を尊重しつつ、自分の着せたい感じのTシャツに近い色の物を選択する。なかなか巧妙な選択だが、別段悪いとは思わない。最終的に私はそのTシャツで良いと言い、観鈴からプレゼントする形で緑色のTシャツを手渡されたのだった。
 余談だが、この後観鈴はもう一着赤色のTシャツを購入していたことが、家に帰り包装紙を開けた時に判明した。観鈴の赤に対する執念に私は素直に屈し、特に言及はしなかった。


第弐拾弐話「大参視スーパーネット対潜@」

「お魚とワカメは橋上市場で購入したし、あとはお野菜とか卵を買えばいいかな?」
 その後、私と観鈴は夕食の材料を購入する為橋上市場に赴き、更にはその足で街中の大型スーパーに繰り出したのだった。
「一応訊いておくが、今日の夕食のメニューはなんだ?」
「マグロのお刺身にアサリのお味噌汁に海鮮サラダ。今日は三陸産の海鮮食材で構成されたお夕食だよ」
 観鈴が購入している食材を見て大方予想はついていたが、やはり今日は海鮮料理のようだ。黒潮と親潮がぶつかる三陸は、日本有数の漁場の一つだ。どれだけ美味い料理が食えるのかと思うと、今から涎が出る気分だ。
「良かった。お一人様1パック限りの卵がまだあった」
 朝型広告で安売りをしているのを予めチェックしていたのだろう。観鈴は安い卵を手に入れられたことが素直に嬉しいようだ。
「やれやれ。やはり普段より安い物が購入出来るのは嬉しいか?」
「うん。それもあるけど、今日は他にも嬉しい理由があるんだ」
「他にも?」
 安い物が買えた以外にも喜びがある。それは一体どういう喜びなのだろう。
「いつもはね、一人でお買物だったから。でも今日は往人さんが一緒。だからお一人様1パック限りの卵が2パック買える。それが嬉しいの、にはは」
「成程な。確かに普段より安い物をより多く買えるのは得した気分になるな」
「ううん、違うよ往人さん。多く買えたのも確かに嬉しいことだけど、わたしが嬉しいのはそんなことじゃないよ……」
「?」
「こうやってね、2人で買物しましたって、実感が持てる物が買えたのが嬉しいんだよ」
「実感が持てるものか……」
 そういうことか。つまり、これも夢の一つだったという訳か。一人じゃなくて誰かと一緒に買い物をする。それは酷く有り触れた光景ではあるが、そんな素朴な行いでも、観鈴にとっては喜びを感じられる程嬉しい行為だったのだろう。
 私と観鈴は夕食に必要な食材を買い揃え、ようやく帰路へと就いたのだった。



「ふう、極楽極楽」
 帰宅すると、観鈴が厚意で風呂を汲んでくれ、私は遠慮なく風呂に浸かる。今日は一日中自転車で走り回り、そして至る所を歩いた。空調の効いた屋内にも何度か入ったが、基本的には太陽が照り付ける暑い夏の野外を散策していた。
 身体にこびり付いた疲労感、流れ出た汗の量は昨日の比ではない。それだけに、昨日以上に風呂に入り疲れを癒す快感を得られるのだ。
「観鈴、なかなか気持ち良い風呂だったぞ」
「あっ、往人さん。ちょうどお夕食の準備が整った所だよ」
 居間へ向かうと、ちゃぶ台の上に観鈴が作った料理が並べられていた。
「なかなか美味そうだが、しかし何故に台所ではなく居間なのだ?」
 昨日の夕食に今日の朝食も台所で食した。昨日の夕食が台所だったことからも、別に夕食は居間で取るという習慣でもないだろう。一体今日の夕食を居間で取ることに何の意味があるのだろう?
「にはは。今日のお夕食はお買物の時行ったように三陸海鮮尽くし〜〜。今日のお夕食はどっちかって言うと旅館のお料理って感じだから居間なんだよ」
 成程、そういうことか。つまり、旅館で海鮮料理を食する雰囲気を出す為に居間なのだ。大概旅館で飯を取る時は畳に座布団を敷き、腰掛けながら食するものだ。洋間で椅子に座りながら食うなど聞いたことがない。
 居間で食する行為が旅館で食する行為の再現とは多少無理がある気もするが、少なくとも台所で食するよりは感じが出ている。
「ははっ、確かに風呂に入った後海鮮料理を食するのは旅館に泊まった気分に浸れるな。では、橘旅館の女将の手料理、とくと味わうとしよう!」



「往人さん、今日もやる?」
 夕食後、観鈴が今日もネットをやるのかどうか訊ねて来た。
「そうだな。昨日は触りの部分だけしかやっていないに等しいし、観鈴が構わないなら今日もやってみたいものだな」
とは言ったものの、具体的にネットを使ってやりたいことがない。一番見たいのはエロサイトだが、観鈴のいる前ではもう見ることは叶わない。果たしてどうしたものか。
「とりあえず多くの人が見ているようなサイトが見てみたいな」
 観鈴の部屋に着くと、私はそんな提案をした。具体例が思い浮かばないので、とりあえず多数の人間が閲覧しているサイトを見たいと思った。多くの人間が閲覧しているということは、それだけ人の興味を惹くサイトということになるだろうからだ。
「多くの人が見ているサイトかぁ。じゃあ2ちゃんねる辺りがいいかな」
「2チャンネル? 別に私はTVを見たい訳ではないぞ」
「にはは。2ちゃんねるはTVのチャンネルじゃなくて、サイトの名前」
 素で勘違いしたが、どうやら2ちゃんねるというのはサイトの名前らしい。しかし、初心者が聞けばTVのチャンネルと間違うような、随分と紛らわしい名前を付けたものだ。
「このサイトはね、匿名掲示板の集合体で、趣味的な話題から政治的な話題まで、あらゆる話題が網羅されているサイトなんだよ」
「あらゆる話題か。それならば自分に合う話題を拾えそうだな」
 さて、自分に合った話題と語ったのはいいが、具体的に自分に合う話題というのがこれまた思い浮かばなかったりする。アニメの情報を集めるのもいいが、恐らく祐一以上の強者が待ち構えているのだろう。とてもではないが、話題に付いて行けない所か、内容すら理解出来ない事態に陥るのは明白であろう。
「観鈴、最近起きたニュースの話題を収拾出来る所はあるか?」
 無難にニュースの話題を拾って見ようと、私は観鈴に訊ねてみた。
「ニュース? それならニュー速+かな?」
 正式な名前はニュース速報+版というらしい。そのサイト――一般的には”板”と言うようだが――ニュース速報+版はその名の通り最新のニュースを取り扱っている板とのことだった。
 観鈴にニュース速報+版に繋いでもらい、そこからは自分でパソコンを操作する。板には細かい字で表示されたニュースの見出しの羅列が並び、正直この中から更に興味深いニュースを探すのは骨が折れる。
「ん? これは……」
 そんな中、ふと興味深い見出しが目に入って来た。【社会】「歌舞伎町中国系マフィア惨殺事件17」という見出しだ。末尾に付いている「17」という数字は、観鈴に寄ればその話題の”スレ”というものが17個目まで行ったことを表わしている数字らしい。
 見出しをクリックして見ると、まず始めに事件の詳細が書き込まれていた。書き込みに寄れば、件の殺人事件は7月16日の深夜に起きたらしい。何でも、16日の深夜の歌舞伎町で、某中国系マフィアの組織の者が尽く殺害されたらしい。
 その手口は、人間の腕力では到底不可能な力で肉体を破壊、もしくは額を正確に拳銃で撃ち抜くかであったという。
 スレでは犯人は日本のヤクザとの抗争、組織の内ゲバ、犯人は単独犯か複数犯かなどの様々な憶測が飛び交っていたが、確証は掴めていないようだ。
「ひどい事件だね。殺されたマフィアの人達が可哀想」
「可哀想? どこが? 奴等は麻薬を裏で流したりして日本の若者を薬漬けにしているような卑劣な輩だぞ? その輩を可哀想とは異な事を。この場合寧ろ殺されて清々したと反応するのが普通の人間の反応だろう」
 実際、スレの中では中国系マフィアに同情する意見は皆無で、多くの意見は私の予想通り”悪い奴等が殺されてスッキリした”という趣旨のものだった。
「確かにそうかもしれないけど、でもそれなら警察が捕まえてキチンと裁判を受けさせて裁くのが正当な道だよ。裁判を受ける過程で自分の罪を認める人がいるかもしれないし。その結果死刑になったら、それは仕方ないかもしれないけど……。
 けど、この人達は罪を償う時間も与えられず、非合法な手段で殺されたんだよ。やっぱり、それは可哀想だよ……」
「やれやれ、観鈴はどこまでも優しいのだな」
 罪を憎んで人を憎まずとでも言えば良いのだろうか。ともかく観鈴はどんな人であれ非合法な手段で殺された者には哀れみの気持ちを抱けるのであろう。優し過ぎるのは人としては欠点かもしれないが、そんな観鈴は嫌いではない。
「では聞くが、どんな悪人であれ正当な法を持って裁かれた者はそれで全ての罪が償われる。死んだ後まで悪人呼ばわれするのは可哀想だと思うか?」
「うん」
「それを聞いて安心したよ」
 どんな人間であれ、死んだ後まで罪に問われる必要はない。そう思える観鈴だからこそ、全ての英霊に対して心から鎮魂の祈りを捧げることが出来たのだろう。
(しかし、人を犯罪に導くような負の心が、神奈様を大気に縛り付けているのだ)
 私自身も、死んだ後にまで罪を咎められる必要はないと思っている。だが、人の負の念は肉体を失っても消えない。その念は再び地上へ舞い降り転生するのを拒み、生に執着するかの如く神奈様にしがみ付き苦しめる。
 それらの負の念には罪はないのだろうか? 神奈様を大気へ縛り付けている負の念は裁かれるべきなのだろうか? ふと、そんなことを考えてしまう。
(いや、罪に問われるとか問われないとか、そのような問題ではないな。彼等の罪は関係ない。彼等がどんな者達であれ、それを振り払わない限り、神奈様は救われない。ただそれだけだ――)



「しかし、犯人はどういう者なのだろうな」
 話を多少戻し、私は犯人像について考えてみた。まず気になるのは、犯行手口の異常さだ。人知を超えた力による肉体破壊と、正確な射撃力。恐らく犯人は何らかの特殊訓練を受けた者だろう。
 次に、その者が所属する組織は? この場合、単独犯の可能性は低いと思う。個人的な恨みや因縁でこのような事件が起きるとは考え難い。犯行自体は単独だったとしても、裏に何らかの組織が存在すると考えるのが妥当だ。
 では、その組織とは? 残念ながら、私の浅はかな思考回路ではここまでが推理の限界だ。何らかの組織に属する特殊訓練を受けた者。これがこの事件における私が描いた犯人像だ。
「ねえ、ひょっとしてこの事件の犯人って、往人さんみたいな力を持っている人じゃないかな?」
「ほう、何故そう思う?」
「う〜ん、何となくかな? 人並み以上の力に射撃力を持っている人って聞いてもしかしたらそうかな〜って思っただけ」
(やれやれ。この力純粋な肉体の力を高められるだけで、仮に同じ能力を持った者でも射撃能力までは……)
 いや待て! 確か須佐之男力は、肉体の純粋なあらゆる力・・・・・を高められる力だった筈だ。それは純粋な腕力に留まらず、視力や聴力と言った五感の力をも鍛えようによっては高められると聞いた。
 ならば犯人は肉体以外に五感をも鍛えた須佐之男力の持ち主。と、考えたが、三貴士の力の中では一番会得し易い力であるとはいえ、一般人がそう簡単に会得出来る力ではない。良くて肉体の一部を常人以上にするのが限界。それ以上の力を発揮するには、私のように皇族の血を引く者、もしくは肉体の一部の機能を代償とした者だけだ。
 それに、三貴士の力は一般的には知られていない。知っていたとしても、それは蝦夷の力や法術など名前を変えたり能力を限定した力で、力の真の名を知り、且つ力を完全に使いこなせる者は極僅かだ。
 そう考えると、ある能力者の犯行と考えるのは、あまりに飛躍し過ぎた暴論に過ぎない。せいぜいどこぞの国のテロリストの犯行と考えるのが犯人像の範疇の限界であろう。
 ともかく犯人像に結び付く情報量が少な過ぎる。もう少し犯人像を特定出来る情報はないかとスレの先を読み続ける。
「むっ、これは」
 それは新たに報道された情報なのだろう。その書き込みに寄れば、つい先程警察による現場検証と検死の結果、犯行に使われた銃は南部十四年式拳銃である可能性が濃厚だという報道が為されたということだった。
 南部十四年式拳銃と聞いてピンと来なかったが、ご丁寧なことにスレの先で拳銃の詳細を説明した書き込みがあった。その書き込みに寄れば、南部十四年式拳銃とは、大正十四年に作られた拳銃で、日本陸軍が初めて正式採用した8連発の軍用自動拳銃だという。
 簡単に説明すれば、今から80年近くに製造された軍用銃ということだ。この情報だけで犯人像が大分絞り込まれた気がする。これだけ古過ぎる銃を、日本のヤクザや中国系マフィアが使うとは思えない。
 となると、犯人像として浮かび上がってくるのは、旧陸軍の関係者と考えるのが妥当だろう。ただの拳銃マニアではこのような犯行はまず不可能だ。実際旧陸軍に所属していた者は皆高齢であり、これらの人間でも犯行は不可能だ。
 ならば、嘗ての陸軍に所属していた者と何らかの繋がりを持った者による犯行と考えるのが自然だろう。大方、皇国を荒らす外国人犯罪者共を排除するなどといった極右的思想に取り憑かれた者の犯行だろう。



「やれやれ。同じような発想をする輩は少なからずいるのだな」
 犯行に使われた銃が南部十四年式拳銃であるのが濃厚だと書き込まれた直後から、犯人を賞賛する書き込みが増えた気がする。それも憂国の志士が悪しき中国人を成敗したという主旨の書き込みだ。
 自分と同じような結論を導き、且つそれを好意的に受け止める人間がいるのだから、世間の狭さに飽きれる限りだ。自分も少なからず賞賛したい気持ちはあるが、観鈴の想いもあり素直には大手を振って喜べない心境だ。
「ん? この”スレ違い”という言葉の下に続く文字列はなんだ?」
 それらの書き込みに対し、”スレ違い”という返事をした者がおり、その下に英数字の文字列が記されていた。一体この文字列は何を指しているのだろうかと、私は観鈴に訊ねた。
「うんっとね、これは他のスレのアドレスを記しているんですよ」
「他のスレのアドレス?」
「ほら、この開いているページの所にも同じような文字列が表示されているでしょ? これは今見ているスレのアドレス。それでこのレスに書き込まれているリンクをクリックすると、対象となるスレに飛ぶんですよ」
「よく分からんが、とどのつまり他の関連したスレが閲覧出来るということか?」
「うん。そんな感じ。この場合リンク先はあまりいい感じのスレじゃない気がするけど」
 何故良い感じのスレではないのか分かりかねるが、興味本位で私はその文字列をクリックしてみた。
「成程。確かにあまり健康的なスレではないようだな」
 飛んだ先のスレは件の書き込みの様な憂国の志士が悪しき中国人を成敗したという主旨の書き込みばかりが目立つスレだった。中にはその書き込みを非難する書き込みもあったが、それらの書き込みは「サヨ氏ね」やら「プロ市民逝ってよし!」などの書き込みで一蹴されていた。
「むっ、この書き込みは」
 そんな中、興味深い批判を展開する者が現れた。それは多くの者達が匿名で書き込みする中、「帝國軍人」という名を語り、犯人を賞賛するスレの書き込みを注意する意見を述べたのだった。
 その帝國軍人の書き込みは、犯人が旧陸軍の関係者であるというのを認めながらも、今回の行為は帝國軍人として恥ずべき行為だという主旨のものだった。
 反論の書き込みは続く。何故恥ずべき行為か。それは非合法な手段を用いて暗殺行為に走るのは、嘗て2・26事件を起こした陸軍将校と何ら変わらない。確かに国を乱す犯罪者は排除する必要がある。しかしそれは国家の組織が正当な理由を持ち行うものだ。国家に寄らぬテロリズムは徒に国を混乱に招くだけだと。
 何より、そのような非合法の行為を持ってして犯罪者を殺めるのを天皇陛下はお喜びになられる筈はないという言葉を持って書き込みは終わっていた。
 この帝國軍人と名乗りし者、少なくとも左翼的思想の持ち主ではない。国家が犯罪者を裁くことを肯定し、何より天皇の名を語っているからだ。左翼的思想の持ち主ならば国家が犯罪者を裁く行為を忌み嫌い、天皇の名など語る筈ないからだ。
 そしてこの者は多少の意見の違いはあれど、基本的に観鈴と同様今回の事件を遺憾に思っているようだ。
 しかし、この帝國軍人なる者。何となくだが若者のようには見えない。いや、ご年配の方がこのようなスレに書き込むとも考え難い。若くないと言っても、せいぜい30、40代位だろう。
 そしてこれは奇妙な感覚だが、この帝國軍人と名乗りし者は本物の帝國軍人・・・・・・・である気がしてならなかった。
(まあ、流石にそれは思い過ごしだろう)
 しかし、本物の帝國軍人なら当に70を過ぎた者ばかりだ。それだと書き込んだ者はせいぜい30、40代位だという推測と矛盾する形となる。やはり書き込んだ者は中年の保守的思想の持ち主だと結論付け、私はネットの閲覧を止め床に就く為観鈴の部屋を後にしたのだった。


…第弐拾弐話完

※後書き

 え〜、今回のタイトル、深い意味はありません。ただの軽いノリです(笑)。
 当初は「大惨事スーパーネット対戦@」というタイトルにしようと思ったのですが、作中でそれっぽいことしていないので、「単にサイトを見た」という感じのタイトルに急遽変更しました。
 さて、今回のネット上で話題になっているという設定の事件ですが、「たいき行」には直接絡みません。一応「たいき行」の後に想定している物語に関わる事件という設定なのですが、その後に続く物語は今の所考えているだけで書く予定はありませんね。
 実は「Kanon傳」で某キャラを殺した者が行った犯行という裏設定があり、それらの事件の犯人は某エロゲーのキャラという設定です。この辺りは終盤間際で描こうと思っています。
 ちなみに犯人に繋がる鍵は、犯行に使われた銃です。この銃をググれば何の作品のキャラクターを出す予定か大体の見当が付くことでしょう。

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